矢坂山の地質
矢坂山の地質について、貴重な研究文献を教えていただきました。「大野村誌」で万葉集で「岩井島」として紹介されいることや、地質編で若干の記述はありますが、昔 水晶が再々見つかったなどのことしかし知りませんでした。部分的に転載させていただきました。
A:沖積層、 T:山砂利層,I:火成岩岩脈,FG:細粒花崗岩,CG:粗粒花崗岩
http://www.ous.ac.jp/garden/kenkyuhoukoku/12/Naturalistae12-1-8.pdf
岡山理科大学の自然植物園の紀要Naturalostace,no,12:1-8(2008)
岡山市の花崗岩の岩相と丘陵地形の関係
鈴木寿志・能美洋介
要旨
岡山市の矢坂山と京山は,周りを沖積平野に囲まれた丘陵地形をなす。この丘陵の地質は,主に白亜紀の花崗岩から構成される。詳細な野外調査の結果,この花崗岩に二種類の岩相,細粒花崗岩と細粒花崗岩,が識別された。そして細粒花崗岩が細粒花崗岩の地形的上位に低角度の境界面を介して分布する地質構造が明らかとなった。矢坂山・京山丘陵の数値地形モデルを作製し地質分布と重ね合わせて検討した結果、細粒花崗岩が地形的高所に分布することが示された。露頭での両岩相の産状を観察すると,粗粒花崗岩の方が粒粒花崗岩よりも風化に強いことが見て取れる。矢坂山と京山の丘陵では,地形的高所に風化に強い細粒花崗岩が分布することて,容易に風化して真砂化する粗粒花崗岩の浸食を防いだ。矢坂山と京山は,差別浸食により残存することができた丘陵と考察される。
矢坂山と京山の花崗岩については,すでに赤木(1927),濡木ほか(1979)による研究がある。赤木(1927)は,7万5千分の1地質図幅および同説明書の中で,岡山市の花岡岩を閃雲花崗岩として記載した.濡木ほか(1979)は,岡山市およびその周辺の花崗岩の岩石学的研究を行い,花崗岩をI~IVの4つの型と細粒相に細分した。矢坂山と京山の花崗岩は濡木ほか(1979)による分類のうち,II型(粗~中粒の角閃石ないし黒雲母アダメロ岩)と細粒相に相当する。これらは本研究での粗粒花崗岩と細粒花崗岩にそれぞれ対応する。
濡木ほか(1979)により,すでに矢坂山と京山に2種類の花崗岩の岩相が存在することが示されていた。しかし両者の地質学的関係については,詳しく述べられていない。本研究では,詳細な野外地質調査により,細粒花崗岩が粗粒花崗岩の地形的上位に低角度の境界面を介して分布することを明らかにした(第2図)。
粗粒花崗岩と細粒花崗岩の地質学的関係
矢坂山では粗粒花崗岩は北半部に,細粒花崗岩は、南半部に分布する。この両岩相の分布状況は,濡木ほか(1979)の地質図にも示された通りである。しかし,両岩相の分布を丹念に調査した結果,細粒花崗岩が粗粒花崗岩の地形的上位に低角度の境界面を介して分布するという地質構造が明らかになった(第2図)。この地質構造は,以下のような両岩相の分布状況や露頭での観察結果から判断された。この地質構造は,以下のような両岩相の分布状況や露頭での観察結果から判断された。
(1)矢坂山西部の中国電力西岡山変電所付近には粗粒花崗岩が分布するが,細粒花崗岩はさらに南の太然寺帝釈堂の下まで矢坂山の麓に入り込むように分布する(第1図①)。中国電力西岡山変電所と太然寺の上位斜面には細粒花崗岩が分布する。
(2)関西高校の矢板山東斜面では,粗粒花崗岩の上位に細粒花崗岩が低角度の境界で直接載る様子が観察された(第1図②)。
(3)大安寺中町の久道稲荷では,粗粒花崗岩の上位に細粒花崗岩が分布する様子が観察された(第1図③)
(4)矢坂山南東の妙見教会の東の露頭では,粗粒花崗岩が観察される。この露頭の上位斜面には,細粒花崗岩が分布する(第1図④).
(5)万成東町の旧採石場南端の崖(万成公会堂南南西480m付近)では,粗粒花崗岩の上位に細粒花崗岩が重なる様子が観察された(第1図⑤)。 細粒花崗岩が粗粒花崗岩の上位に載る地質構造は,京山でも確認された。
(6)三学ぱる岡山,児童会館公園,岡山商科大学第二施設などの標高が低い場所では粗粒花崗岩が露出するのに対して,山頂の遊園地周辺では細粒花崗岩が露出する。特に三学ぱる岡山の崖では,粗粒花崗岩の上位に細粒花崗岩が直接載る様子が観察された(第1図⑥)。
粗粒花崗岩と細粒花崗岩の物性の違い
野外での観察の結果,粗粒花崗岩と細粒花崗岩の風化に対する耐性に明瞭な差異が認められた。粗粒花崗岩の場合,採石場などで地下の岩盤まで掘削されている場合は.新鮮で硬質な岩石が得られる。しかし、一般に表層に露出する場合は,節理に沿って風化が進行し,タマネギ状に割れやすくなったり,さらに風化が進行して真砂状に崩れやすくなった産状が多く観察された。これに対して細粒花崗岩の場合は,真砂化することが少なく,尾根や斜面でもハンマーを跳ね返すような硬質な岩石が多く観察された。このような観察結果から,細粒花崗岩は風化に強く,硬質なまま残りやすいのに対し,粗粒花崗岩は風化に弱く,容易に真砂化して崩れやすい性質をもつことが分かる。
このような風化に対する耐性の違いは,鉱物組成の差異に拠るものと考えられる。これら花崗岩の岩石学的な特徴については別途稿を改めて報告する予定であるが,これまでの検討の結果では,細粒花崗岩の方が粗粒花崗岩に比べて若干石英分に富む傾向がある(釘宮,私信).石英は花崗岩の構成鉱物の中で最も風化耐性の高い鉱物なので,細粒花崗岩がより硬質で風化に強いという野外での観察結果と調和的である。
考 察
矢坂山と京山の地質構造は,硬質な細粒花崗岩が地形的上位に位置し,軟質な粗粒花崗岩の上に重なるように分布することが明らかとなった.また数値地形モデルを作成して表層地質分布と重ね合わせた結果,これら二種類の花崗岩の分布が,現存する地形構成と密接に関連することが示された.粗粒花崗岩は。容易に風化し,真砂となってしまうが,矢坂山と京山では風化に強い細粒花崗岩が粗粒花崗岩の上に蓋をするように覆って分布するため,浸食されずに丘陵として残ったと考えられる.矢坂山と京山の周りにも元来は花崗岩が存在していたはずであるが,細粒花崗岩が分布しなかったか,もしくは,分布していたけれども早い時期に取り除かれてしまったために粗粒花崗岩が直接風雨にさらされる状態となり,容易に浸食され,削剥されてしまったのであろう。矢坂出と京山は,差別浸食により残存することができた丘陵であると結論づけられる。